数年前に恩師が急逝した。
出会った時はすっかり演劇から身を引いていて、
(鬼の演出家だったらしい)
そんなことも知らず、学生部にいた恩師を、自分が無理矢理劇団の演技指導に、頼み込んで招き入れた。
(もちろん何度も断られた挙句、演出はやらない、と断言された)
かの有名な俳優の親族でもある。
(もちろんそんなことは全然知らなかった)
かれこれ3年くらいお世話になり、いざ大学を卒業する時に、
「この劇団は君が卒業したらもう終わりだ、だから僕も身を引く、君がいなくなるのに続ける意味はない」
と言われた。
「いやいや…。後をお願いしますよ」
「やだ、僕は君に惚れたんだから」
その恩師は、プロになれとは一言も言わなかった。
旗揚げ公演の時に演目を迷っていたら、
「『奇跡の人』をやりなさい」
と言われ、
「いや無理ですよ(実力的に)。大体、サリバン先生は誰がやるんですか?」
「君がやるんだ」
「?! …いやでも俺、男ですよ…?」
「そんなことは関係ない。君がやるんだ」
と言われた。
「なんでよりによって『奇跡の人』なんですか?」
と聞いたら、
「有名だから。三重苦のヘレン・ケラーと聞けば誰もが知っている。だからお客さんが入るからだ」
と。
今思えばやっておけばよかったと思うのだが、結局、演目は恩師の提案で『米百俵』になった。
ところがそれが評判を呼び、大学からの依頼で他大学での出張公演になるまで広がった。
(なんせ教育の話なので)
恩師の葬儀で、恩師の先輩にあたる人が弔辞を読まれていた。
「(略)…今度は君が先輩だ。向こうに逝った時に美味しい店に連れて行ってくれ。そしていろんな話を聞かせてくれ」
涙が止まらなかった。
これまでに何度も恩師に請いたいと思った。
いやこれからも思うだろう。
しかしそれは叶わない。
その度に思う。
何ぞや、と。
それは何ぞや、と。
誰にも教えられないことだ。
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