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2011/05/14

誰にも教えられない

数年前に恩師が急逝した。


今更ながらそれを語るつもりはないが、まだ若くて、酒好きで、しかも高校演劇に身を捧げたような人だった。
出会った時はすっかり演劇から身を引いていて、
(鬼の演出家だったらしい)
そんなことも知らず、学生部にいた恩師を、自分が無理矢理劇団の演技指導に、頼み込んで招き入れた。
(もちろん何度も断られた挙句、演出はやらない、と断言された)

かの有名な俳優の親族でもある。
(もちろんそんなことは全然知らなかった)

かれこれ3年くらいお世話になり、いざ大学を卒業する時に、
「この劇団は君が卒業したらもう終わりだ、だから僕も身を引く、君がいなくなるのに続ける意味はない」
と言われた。
「いやいや…。後をお願いしますよ」
「やだ、僕は君に惚れたんだから」

その恩師は、プロになれとは一言も言わなかった。

旗揚げ公演の時に演目を迷っていたら、
「『奇跡の人』をやりなさい」
と言われ、
「いや無理ですよ(実力的に)。大体、サリバン先生は誰がやるんですか?
「君がやるんだ」
?! …いやでも俺、男ですよ…?
「そんなことは関係ない。君がやるんだ」
と言われた。
「なんでよりによって『奇跡の人』なんですか?
と聞いたら、
「有名だから。三重苦のヘレン・ケラーと聞けば誰もが知っている。だからお客さんが入るからだ」
と。

今思えばやっておけばよかったと思うのだが、結局、演目は恩師の提案で『米百俵』になった。
ところがそれが評判を呼び、大学からの依頼で他大学での出張公演になるまで広がった。
(なんせ教育の話なので)


恩師の葬儀で、恩師の先輩にあたる人が弔辞を読まれていた。
(略)…今度は君が先輩だ。向こうに逝った時に美味しい店に連れて行ってくれ。そしていろんな話を聞かせてくれ」

涙が止まらなかった。



これまでに何度も恩師に請いたいと思った。
いやこれからも思うだろう。
しかしそれは叶わない。
その度に思う。
何ぞや、と。

それは何ぞや、と。


誰にも教えられないことだ。

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